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(1)舞台幕とは

 

わたしたちの身近にある劇場や学校、映画館、ホテルや旅館の舞台には、様々な「舞台幕」が、その用途に応じて備え付けられています。観劇や演奏会、講演会や文化祭、入学式や卒業式といった式典といった機会に、多くの方々は、それらの幕類を目にされていることでしょう。

 

ここでは、それら舞台幕の名称や用途を簡単に説明していきたいと思います。

 

舞台幕の設営の目的は、大別して、3つの用途に分けることが出来ます。

 

  1. 客席と舞台とを分けることを目的とするもの(緞帳や引き幕)

  2. 人間や舞台装置を観客の目から隠すことを目的とするもの。(諸幕、雑幕)

  3. 舞台効果を目的としたもの。(道具幕や背景幕)

 

それら用途に応じて、以下のような、幕が設置されます。

 

 (2)舞台幕の名称

 

注 日本における演劇の歴史と劇場成立の過程から、舞台幕の名称は業界内でも統一されているとは言い難いのが現状です。

したがって、ここで紹介する舞台幕の名称はあくまで、一般的な分類であることをお断りしておきます。

 

  1. 一文字幕(水引幕、霞幕)  校章刺繍付
    元々は、舞台の上部にある吊物用の仕掛けや、照明器具を観客の視線から隠すために、舞台上部に設営される目隠し用の丈の短い幕を指していいます。同じ幕を一部では水引幕、霞幕という名称で呼ぶ場合があります。
     

  2. 袖幕(源氏幕、脇幕、見切幕)
    舞台の両脇に多くは舞台に対して平行に設営され、控えている役者や装置を観客の視線から隠すことを目的とする幕類を指していいます。
    一般的に、一文字幕と対になる形で、舞台最前列に配置される、幕を「源氏幕」、それ以外の袖幕を「見切幕」と称することが一般的です。
     

  3. 緞帳
    舞台の前面にあり、開演と同時に開き(上がり)終演と同時に閉じる(降りてくる)豪華な装飾を施された舞台幕です。が、かつては「緞帳芝居」と蔑視されたように、常式幕(いわゆる歌舞伎幕)を用いることを許された江戸3座の芝居に対して、格下の芝居小屋の代名詞でもありました。現在のように緞帳が一流劇場の代名詞となった歴史は意外と浅く、西陣綴織の緞帳が昭和26年大阪に登場してからのことです。今日では日本式の緞帳も海外に輸出され、緞帳という幕はその用途以上に、美術工芸品として評価されるようになっています。
     

  4. 引き幕
    舞台に設営される開閉式の幕を総称して「引き幕」と呼びます。舞台全体を観客の視線から隠すという目的の為に使われます。明治期までは、江戸の劇場天井高が防災上の理由から制限されていたこともあって、今日の「緞帳」としての役目をも果たしていました。有名なところでは、歌舞伎で使用される黒、柿、緑の三色の幕「定式幕」があります。ちなみに歌舞伎座(森田座式)と国立劇場(市村座式)では色の配列が異なっています。
     

  5. 中割幕
    引き幕の内、舞台の中央から左右に引き分ける幕を中割幕と称することがあります。
     

  6. 割緞
    中幕のうち、緞帳の役目を果たさせることを目的とした幕を「割緞(帳)」と呼びます。明治期、西洋演劇が輸入され、それに伴いオペラカーテンに代表される西洋舞台幕もまた国内に入ってきました。それまでの舞台機構や舞台幕も、新しい舞台技術に変容を遂げる必要に迫られました。それに伴って絞り上げ緞帳や斜め上げ式緞帳といった舞台幕の多様化が進んでいきました。
     

  7. 後幕(バック幕)
    いまでこそ、JRやNTTといった横文字名称が何の違和感もなく通用していますが、舞台幕名称の混乱の最たる例が、「バック幕」という得体の知れない名称で舞台奥に設営される引き幕(もしくは中割幕)でしょう。
    この幕の用途はホリゾント幕を隠して、舞台の使用目的が講演会のような場合に背景として使用されるときに用いられます。
     

  8. 東西幕(見切幕)
    袖幕類のうち、舞台の間口が広すぎて、通常の袖幕だけでは左右の端の観客席から舞台袖が見えてしまうような場合、舞台の手前から奥に対して設けられる幕を東西幕と呼びます

  9. 暗転幕
    緞帳や引き幕のすぐ後ろに設営されることが多い、場面転換中の舞台を観客の視線から隠すための引き幕が暗転幕と呼ばれる幕です。今日では、舞台照明器具や舞台機構の発達で、短時間に場面転換が行われるようになりましたが、電気が使用できなかった時代には、芝居の場面転換を観客の視線から遮るために舞台全体を「覆い隠してしまう」黒い幕はとても利用価値の高いものでした。

     

    舞台幕には、それ以外に様々な舞台効果を目的とした幕があります。

     

    その他の幕

     

  1. 紗幕
    演劇やダンスの舞台などで、薄靄がかった雰囲気を作り出すときなどに使われるガーゼ状の幕を紗幕といいます。
     

  2. ホリゾント幕
    舞台最後方にある浅葱色の幕をホリゾント幕と呼びます。この幕は幕単体というよりも、ホリゾントライトという舞台照明器具の光を投影する布製スクリーンというべき幕です。舞台効果上、夕暮れ青空といった様々な照明効果がこの幕を使って表現されます。
     

  3. 背景幕
    幕そのものを、舞台の道具として用いるのが、道具幕、背景幕といった名称で呼ばれる舞台幕です。
    背景幕は、町並みや舞台装置を文字どおりキャンバス(帆布)に書き込んだものです。
    また、引幕同様、かつては国内でも様々な意匠の背景幕がありました。
     

  4. 道具幕(波幕、網代幕、浅葱幕、かすみ幕、雲幕)
    幕自体を動かしたり、それを大道具として使用したりすることを目的としたものに歌舞伎などで用いられる諸幕があります。波幕や雲幕は文字どおり、波や雲海を表現します。また、網代塀を模した網代幕、慶事を表現した段幕(紅白幕を横にしたような幕)などそれらの幕を使うことで、装置や劇的表現に多様な表情を添えることが出来ます。
     

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